「このまま知財部にいていいのだろうか」
ふとした瞬間にそう思ったことはありませんか?
私自身、メーカーの開発職から知財部に異動し、数年が経った頃に同じ思いを抱えていました。
知財の仕事にやりがいを感じつつも、専門性が高いがゆえに転職市場でどう評価されるのか、他のキャリアパスはあるのか、不安になることも多かったのを覚えています。
知財部というポジションは、専門的な知識と実務経験が求められる一方で、他部署や他業界との接点が少なくなりがちです。そのため「転職が難しい」という声が上がるのも無理はありません。
実際、私の周囲でも、
- 「社内異動はできても社外に出るのは怖い」
- 「転職エージェントに知財の求人が少ないと言われた」
- 「自分の市場価値がわからない」
といった不安の声を何度も耳にしてきました。
でも、結論から言えば、知財部出身でも転職は可能です。ただし、「何となく転職したい」だけでは難しく、「どう動くか」が明暗を分けるのです。
この記事では、知財部で働いていた私自身の実体験をベースに、「転職が難しい」と言われる理由を分解しつつ、どうすれば転職の選択肢を広げられるのかについてリアルな視点で掘り下げていきます。
キャリアに迷っている方の一つの参考になれば幸いです。
私自身の転職の体験に関してはこちらでご紹介しています。
知財部からの転職が「難しい」と言われる理由とは
知財部に在籍していると、社内ではある程度「専門職」としてのポジションが確立されており、業務の幅もある程度定まってきます。
しかし、いざ「転職」を考えた時に、思ったよりも選択肢が少ない…そう感じる方は少なくありません。
この背景には、いくつかの構造的な要因があります。
1. 「知財」の仕事は社内でも理解されづらい
特許調査、出願、中間処理、係争対応…。知財部で日々行っている業務は、技術にも法務にも近い極めて専門的な内容です。
ところが、転職市場では、その専門性が「何に役立つのか」が採用担当者に伝わりづらいというのが現実です。
たとえば、研究職や営業職なら「実験経験があります」「年間1億円の売上を作りました」といった数字や分かりやすい成果でアピールできますが、
知財業務は「出願件数」や「審査対応」など、抽象的になりがちで、外部からは評価がしにくいのです。
2. 求人数が限られている
転職市場における「知財求人」は、他の職種に比べて絶対数が少ないです。
しかもその多くは、大企業の知財部か、特許事務所といった比較的限られた選択肢になります。
しかも、それぞれに求められる経験やスキルが明確で、即戦力が求められるケースがほとんど。
そのため、「少しだけ知財に関わったことがある」「担当した技術分野が狭い」といった人にとっては、応募できる案件自体が絞られてしまいます。
3. 技術分野や業界による「経験の偏り」
知財の世界では、「電気系」「ソフトウェア系」「機械系」など、技術分野ごとに専門性が求められます。
同じ知財部でも、たとえばバイオ系企業にいた方が半導体メーカーに転職するのは、ややハードルが高いとされています。
また、企業知財と特許事務所とでは業務内容も働き方も大きく異なるため、単純な「横移動」は難しい場合も多いです。
4. 弁理士資格がないと不安になるケースも
弁理士資格を持っていないと「転職に不利なのでは」と感じる方もいるでしょう。
実際、資格があれば応募できる求人の幅は広がります。ただし、資格がないからといって転職できないわけではありません。
重要なのは、「どの分野で、どんな知財業務をしてきたか」をきちんと説明できること。
資格の有無だけでなく、業務経験やスキルの棚卸しをどう行うかがカギになります。
転職に成功する知財部出身者の共通点とは?
「知財部からの転職は難しい」とされる一方で、実際に希望する企業や特許事務所への転職に成功している人も少なくありません。
では、彼らにはどんな共通点があるのでしょうか?
1. 自分の「強み」を言語化できている
転職活動で最も重要なのは、自分が企業にとってどう役立つかを明確に伝えることです。
たとえば、以下のように具体的なエピソードに落とし込んでいる人は、面接でも強い印象を残します。
- 「製品開発段階から関わり、特許出願の方向性を提案した結果、権利化率が向上した」
- 「特許調査を徹底的に行い、他社回避設計につなげたことで特許係争のリスクを減らした」
このように、知財の専門業務を“ビジネスの貢献”に変換して語れる人は、どの企業でも高く評価されます。
2. 技術と法律の橋渡しができる
知財の仕事は、単に法律に詳しいだけでも、技術に詳しいだけでも務まりません。
両者をつなぐ「翻訳者」のような能力が求められます。
このスキルは、異業種への転職や、法務・開発・経営企画など他部門との連携が求められる企業でも大いに活かされます。
実際に、IT企業やスタートアップでは、「技術と法務の両方に明るい人材」は非常に重宝されています。
3. コミュニケーション力が高い
転職活動において、知財の専門性と同じくらい重要視されるのが「対話力」です。
企業の採用担当者や事務所の所長は、一緒に働けそうか、顧客と信頼関係を築けそうかを見ています。
そのため、「部内調整を任されていた」「発明者とのヒアリングをリードしていた」「知財教育の社内講師をしていた」といった経験は、
単なる職務経験以上に価値のあるアピールポイントになります。
4. 資格やスキルを積極的に補完している
弁理士資格を持っていれば、転職活動で大きな武器になります。
特に特許事務所では、弁理士資格が応募条件になっているケースも多くあります。
「まだ資格は持っていないけど転職したい」という方は、転職前に勉強を始めておくことが非常に有効です。
たとえば、私が実際に合格した「スタディング弁理士講座」は、働きながら学べるカリキュラムが整っており、スキマ時間を活用して着実に学習を進めることができます。
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「今すぐ転職」ではなくても、“転職できる状態”を整えておくことは、キャリアの選択肢を広げる大きな一歩になります。
また自身の体験についてもこちらでご紹介しています。
知財部からの転職でよくある失敗とその回避策
知財部からの転職において、準備不足や戦略ミスにより転職活動が長期化したり、思うような職場に出会えなかったりするケースもあります。
ここでは、よくある失敗例とその対処法を具体的に解説します。
1. 自分の市場価値を正確に把握できていない
「今の仕事に飽きたから」「知財の仕事にやりがいを感じないから」という理由だけで転職を始めると、自分の強みを見失ったまま迷走する可能性があります。
特に注意したいのが、「社内知財」だけの経験をそのまま横展開しようとするケースです。社内で通用していたスキルが、外では求められていないこともあります。
→回避策:転職エージェントで客観的に自己分析
こうした落とし穴に陥らないためにも、知財業界に強い転職エージェントを活用するのが有効です。
専門家の客観的な視点を取り入れながら、「自分のキャリアで市場に出せる価値」を整理しておくことが、成功への第一歩です。
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👉今よりも働きやすい事務所に転職できる。 弁理士・特許技術者求人サイト【リーガルジョブボード】
実際、私の周囲でも「エージェントと面談したことで、自分のやりたいことが明確になった」と話す人が多く、相談を通じて内定率が上がったケースもあります。
2. 転職先の業務内容を十分に理解していない
「特許事務所なら専門性が高そう」「スタートアップは自由そう」というイメージだけで転職先を選ぶと、ミスマッチが起きやすくなります。
たとえば、特許事務所に入ってから「ひたすら明細書を書く日々が続き、社内の調整や戦略的な仕事が恋しくなった」という話もよく聞きます。
3. 面接で専門性しか語れていない
面接で「こんな特許を書いていました」「係争をこんな風に処理しました」といった話ばかりだと、採用側からは“現場職人”のような印象**を持たれる恐れがあります。
→回避策:「なぜそれをやったのか」「何に貢献したのか」を語る
特許実務のスキルだけでなく、「なぜその戦略を取ったのか」「どんな効果があったのか」まで伝えられる人は、ビジネス視点がある人材として評価されます。
たとえば、次のような言い回しに変えてみると良いでしょう。
- 「新規性だけでなく、侵害されやすい構成要素を意識して権利化しました」
- 「グローバルでの模倣リスクをふまえ、英語明細書の記載方法にも配慮しました」
また、弁理士資格取得後の転職についてはこちらの記事にまとめています。
知財部からの転職に向けて今すぐ始められる準備
知財部からの転職に成功するには、いざ動き出してから焦るのではなく、“事前準備”がカギを握ります。ここでは、今すぐ取りかかれる具体的な準備を3つご紹介します。
1. 職務経歴書とキャリアの棚卸し
転職活動の第一歩として欠かせないのが、職務経歴書の作成です。
知財部での業務は非常に専門的なため、自分では当たり前だと思っている業務も、他社から見ると価値ある経験かもしれません。たとえば:
- 発明提案のヒアリングから権利化まで一貫して担当
- 外国出願(PCT、Parisルート)を経験
- 特許訴訟の初期対応を社内でまとめた
- 商標・意匠・著作権など多分野に携わった
などの経験は、職務経歴書に記載すべき大きな強みになります。
ここで意識したいのは、「作業内容」よりも「成果・工夫・目的」です。
具体的に数字やエピソードを交えながら、“自分だからできたこと”を言語化しておくと、面接でも説得力が増します。
2. 知財以外のスキルも補強しておく
実は、転職市場で評価される知財人材とは「知財だけに詳しい人」ではありません。
**ITリテラシーや法務・ビジネス知識を持った“越境型人材”**が歓迎される傾向にあります。
たとえば、私は知財実務に加えて以下の資格を取得しました:
- ITパスポート(2024年6月合格)
- 基本情報技術者(2024年8月合格)
- 応用情報技術者(2024年12月合格)
これらはシステム系の理解を深めるだけでなく、AIやIoT関連特許の対応にも役立つ知識です。
また、法律や経営への理解があると、法務・経営企画と連携しやすくなります。
3. 弁理士資格の取得を目指す
知財部で働いていて、「次のキャリアに進みたい」と思ったとき、弁理士資格の有無が大きな武器になります。
特に特許事務所や企業の知財責任者ポジションでは、「資格保有」が明確な評価ポイントになります。
資格を取ることで、
- 転職の選択肢が広がる
- 年収アップを目指しやすい
- 他の士業や専門職との横展開も可能
といったメリットがあります。
私も働きながらスタディングを使って独学し、約1年で弁理士試験に合格しました。
スマホ中心のインプット+過去問演習で効率的に勉強できたのが大きかったです。
転職後に後悔しないために知っておきたいこと
転職は人生を左右する大きな決断です。
とくに知財部のような専門職からの転職では、「転職してよかった」と思えるかどうかは、事前の情報収集と心構えにかかっています。
ここでは、転職後にありがちなギャップと、それを乗り越えるために事前に考えておくべきポイントを解説します。
1. 専門性が伝わらないもどかしさ
知財部では「専門的な知識がある前提」で会話が進みますが、転職先ではそうとは限りません。
たとえば営業部門や法務部門、あるいは経営陣と仕事をする際には、
「この出願の重要性」「この特許がなぜ脅威なのか」を非専門家にも伝わる言葉で説明する力が必要になります。
これを怠ると、「なんか難しいことを言ってるな」「結局どうしたらいいの?」と思われ、信頼を築くのが難しくなるケースも。
知財の専門知識を“翻訳”してビジネスの現場に届ける。
このスキルが、社内での評価や影響力を大きく左右します。
2. 知財“だけ”では評価されにくい現実
転職後に「なんだか思ったより評価されない」と感じる人の多くがぶつかるのが、
知財業務だけで自分を評価してくれる環境ではないという点です。
とくにスタートアップや新興企業では、知財の重要性は理解されていても、
それが「売上や成長にどう貢献するか」が示されなければ評価に直結しません。
つまり、知財業務と経営課題を結びつける視点が重要なのです。
逆に言えば、それができる知財人材は、どんな企業でも重宝されます。
私自身も、現職で「特許の保護範囲の見直し=製品リリースの加速」に貢献したことが評価され、
知財部内にとどまらず、事業側との連携機会が増えました。
3. 組織文化の違いによるストレス
転職後にストレスを感じる原因の多くは、**業務内容そのものではなく、“文化の違い”**です。
たとえば:
- 前職は慎重・審議重視、転職先はスピード重視
- 知財の重要性が組織文化に根付いていない
- コンプライアンスへの意識が低く、戸惑う場面がある
こうしたギャップは、入社前の情報だけでは見抜けないことも多く、「思っていたのと違う…」という転職後のミスマッチにつながることがあります。
そのためにも、転職活動では「求人票」だけで判断せず、キャリアエージェントに相談して“リアルな情報”を得ることが重要です。
▼知財職専門のキャリア支援も対応
👉今よりも働きやすい事務所に転職できる。 弁理士・特許技術者求人サイト【リーガルジョブボード】
一人で転職活動を進めると視野が狭まりがちですが、専門性のあるエージェントに相談することで、
自分に合った転職先や、思いもよらぬ選択肢に出会えることもあります。
まとめ:知財部からの転職は難しくない、でも戦略は必要
「知財部 転職 難しい」という言葉に不安を感じる方も多いかもしれません。
しかし実際には、しっかりとした準備と視野の広さがあれば、知財人材は他分野でも十分に評価される存在です。
本記事でお伝えしてきたように、転職で苦労する人の多くは、「専門性のアピールの仕方」「組織文化の違い」など、知識以外の部分でつまずいていることがほとんどです。
逆に言えば、これらの点を事前に押さえ、納得感のある転職活動を進めていけば、知財キャリアの可能性は大きく広がっていきます。
そのためにまずは、自分自身の専門性や市場価値を再確認するためのインプットが欠かせません。
たとえば、体系的に知財の基礎から実務スキルまで学べるオンライン講座を活用するのも一つの方法です。
また、転職を視野に入れている方は、情報を求人票だけに頼らず、信頼できる転職支援サービスを活用することで、視野を広げることができます。
自分の知財スキルは、まだまだ活かしきれていない可能性がある。
そう信じて、次のキャリアを前向きに切り拓いていきましょう。
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