特許期限切れ後の世界:技術は誰のものになる?【独占権の終わりとビジネスチャンス】

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こんにちは、coffeeです。

理系大学院卒業後、メーカーの開発職を経て現在は知財部で実務を担当し、弁理士としても活動しています。私のプロフィールや、なぜ弁理士を目指したのかについてはこちらの記事(運営者情報ページのリンクを想定)をご覧ください。

特許は、発明を独占的に利用できる強力な武器です。しかし、その権利は永遠ではありません。必ず期限切れが訪れます。

この「特許期限切れ」は、企業や個人にとって、大きな転換点となります。

「期限が切れたら、その技術は誰でも自由に使えるの?」 「特許切れをうまく活用する方法はある?」 「医薬品や医薬の特許は特別って聞くけど、どういうこと?」

これらの疑問は、特許制度の根幹に関わる重要なテーマです。この記事では、特許の期限切れについて、その意味、影響、そしてビジネスへの活用法まで、専門家の視点から深く掘り下げていきます。

この記事を読めば、特許期限切れ後の世界を正しく理解し、新たなビジネスチャンスを見つけ出すヒントが得られるはずです。


第1章:そもそも特許の有効期間とは?法律の基本を理解する

まず、特許権の有効期間について正確に理解しましょう。日本の特許法では、特許権の存続期間は、特許出願の日から20年間と定められています(特許法第67条第1項)。

この20年間という期間は、特許権者に対して発明の独占権を与える一方で、社会全体への技術の公開と普及を促すための重要なバランスの上に成り立っています。もし特許権が永久に続くとしたら、新たな技術開発が停滞し、産業の発展が阻害されてしまうからです。

存続期間の「起算日」と「設定登録」の重要性

特許権の存続期間は「出願の日」からカウントが始まります。注意すべきは、特許権が発生するのは、出願をして審査に合格し、特許庁に「設定登録」された時点であるということです。つまり、出願から登録までの期間も、20年という存続期間に含まれます。

たとえば、出願から登録までに5年かかったとすると、実際に特許権者が独占的に実施できる期間は残りの15年間ということになります。この期間が長ければ長いほど、特許権者にとっては不利になりますが、これについては後述する「期間補償のための特許権の存続期間の延長」という特別な制度で救済されることがあります。

特許権の存続期間と他の知的財産権との違い

ここで、特許権と他の知的財産権(著作権、商標権など)の存続期間の違いを比較してみましょう。

  • 特許権:原則、出願から20年間
  • 著作権:原則、著作者の死後70年間。登録は不要で、創作した時点で権利が発生します。
  • 商標権登録から10年間。更新することで半永久的に権利を維持できます。

このように、特許権は他の知的財産権と比べて存続期間が短いのが特徴です。これは、特許権が技術そのものを保護する強力な権利であり、その独占期間をあまり長くしすぎると、社会全体の技術革新を阻害する恐れがあるからです。


第2章:特許期限切れがもたらすメリット・デメリットと社会への影響

特許が期限切れになると、その技術は「公知(こうち)」となり、誰でも自由にその発明を利用できるようになります。これは社会全体にとって、そして企業や個人にとって、メリットとデメリットの両方をもたらします。

特許期限切れのメリット

  1. 新規参入のチャンスが生まれる これまで特許権によって守られていた技術が自由に使えるようになることで、後発企業やベンチャー企業がその技術を応用した新製品やサービスを開発し、市場に参入する機会が生まれます。これにより、新たな競争が生まれ、市場が活性化します。
  2. 技術の応用と発展が促進される 特定の企業が独占していた技術が公開されることで、その技術を基盤とした、さらなるイノベーションが促進されます。異なる分野の技術と組み合わせることで、思わぬ新しい製品が生まれることもあります。
  3. 消費者の選択肢が増え、価格競争が起こる 特に医薬品分野で顕著ですが、特許切れによって安価なジェネリック医薬品が市場に参入し、消費者はより安価な選択肢を選ぶことができるようになります。これにより、医療費の削減にもつながります。

特許期限切れのデメリット

  1. 特許権者の収益減少 独占的な利益を享受していた特許権者は、市場に競合が参入することで、売上やロイヤリティ収入が減少するリスクに直面します。これが、次の研究開発への投資を抑制する要因となる可能性もあります。
  2. 技術開発のインセンティブ低下 多大な時間と費用をかけて開発した技術が、短期間の独占期間の後に誰でも利用できるようになることは、新たな研究開発への意欲を削ぐ可能性も否定できません。特許制度は、この「独占」と「公開」のバランスをいかに取るかという難しい課題を常に抱えています。

この特許期限切れ後のビジネス戦略については、企業の知財部が深く関わっています。知財部の仕事について詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてください。


第3章:医薬品・農薬分野の特許存続期間延長制度とは?

特許権の存続期間は原則20年ですが、医薬品や農薬の特許には、特別な延長制度が認められています。これは、これらの製品が市場に出るまでに、安全性を確認するための承認審査に多大な時間を要するためです。

存続期間延長の必要性

医薬品は、特許出願から開発、臨床試験、そして国の承認を得て市場に出るまでに、通常10年以上の歳月がかかります。もしこの期間が特許の20年に含まれてしまうと、実際に企業が独占的に販売できる期間はわずか数年になってしまいます。

これでは、莫大な開発費を回収できず、新たな医薬品開発への投資が滞ってしまいます。社会的に重要な医薬品の開発を奨励するため、特許法では、医薬品等の承認審査に要した期間を考慮して、最大5年間の存続期間の延長が認められています(特許法第67条第4項)。

延長期間の具体的な計算方法

延長される期間は、承認審査にかかった期間から、特許権者側の事情による遅延期間などを除いた期間となります。この延長制度は、製薬会社にとって非常に重要な制度であり、弁理士の中でも特に薬学や化学のバックグラウンドを持つ専門家が活躍する分野です。

このように、特許の有効期間は単純に20年というだけでなく、その技術分野の特性に応じて柔軟な制度が設けられているのです。


第4章:特許期限切れに備える企業と個人の戦略

特許期限切れは、単なる権利の消滅ではありません。それは、次のビジネスチャンスを生み出す重要な機会です。特許権者、そして第三者がどのようにこの転換期に対応すべきか、具体的な戦略を解説します。

特許権者側の戦略

特許権者は、独占期間の終わりを見据え、以下のような対策を講じます。

  • 後継技術の特許取得:特許切れを迎える前に、その技術をさらに改良・発展させた後継技術の特許を出願し、新たな独占期間を確保します。
  • ブランド力の強化:特許技術だけでなく、商標デザインを通じてブランド価値を高め、顧客の囲い込みを図ります。たとえば、特許が切れても、その製品のブランド名やデザインを真似することは商標権や意匠権の侵害にあたります。
  • 製造ノウハウの秘匿:特許で開示された内容だけでは再現が難しい製造ノウハウは、営業秘密として厳重に管理します。これにより、特許が切れても、競合が完全に同一の製品を製造することを困難にできます。

第三者(非特許権者)側の戦略

特許切れを待って市場参入を狙う企業は、以下のような戦略が有効です。

  • 特許調査の徹底:J-PlatPatなどのデータベースを利用して、目的の特許が期限切れになっているか、あるいは無効化されていないかを徹底的に調査します。これを怠ると、知らずにまだ有効な特許を侵害してしまうリスクがあります。
  • 技術の応用・改良:単に特許技術を模倣するだけでなく、そこに独自の改良を加えたり、新しい用途を見出したりすることで、差別化を図ります。
  • コスト競争力の確保:ジェネリック製品に代表されるように、特許切れ技術を利用して、既存製品よりも低価格で高品質な製品を提供することで、市場シェアを獲得します。

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第5章:特許期限切れ後の「虚偽表示」とその他の注意点

特許が期限切れになった後も、いくつか注意すべきことがあります。

虚偽表示の禁止

特許法では、特許権が消滅しているにもかかわらず、「特許製品」であるかのような表示(特許表示)をすることを虚偽表示として禁止しています(特許法第188条)。これは、消費者に誤解を与え、不正な競争を招く可能性があるためです。

特許期限切れ後も製品に特許番号を記載している場合は、その旨を削除するか、「特許取得済み技術」のような、既に権利が切れていることを示唆する表示に変更する必要があります。

再度の特許取得は不可能

一度期限切れとなった特許技術について、再度同じ内容で特許を取得することは絶対にできません

なぜなら、特許の要件である「新規性」が失われているからです。特許出願時点で、その技術が既に世の中に公開されていれば、新規性がないと判断され、特許は認められません。特許公報によって内容が公開された時点で、その技術は公知となり、新規性が失われます。

このため、特許権者は、一つの特許で永久に独占することはできないのです。


第6章:特許の知識を深め、キャリアを築くということ

特許の期限切れは、一見すると専門的な話題に思えるかもしれませんが、企業活動や社会経済の動向を理解する上で非常に重要な概念です。このような知的財産に関する深い知識は、あなたのキャリアを大きく広げる武器となります。

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まとめ

特許の期限切れは、特許権者にとっては独占権の終わりを意味しますが、社会全体にとっては、技術が共有財産となり、新たなイノベーションの土台となる重要な転換点です。

  • 特許権の存続期間は、原則として出願から20年間。
  • 期限切れ後の技術は誰でも自由に利用できるが、虚偽表示は禁止されている。
  • 医薬品や農薬には、特別な延長制度が存在する。
  • 特許権者は後継技術の開発やブランド力強化で、非特許権者は徹底した特許調査とコスト競争力で、特許切れ後の市場を攻略する。

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