この記事は、令和3年度に1年10万円以下で弁理士試験に合格した現役企業内弁理士が実体験を元に書いています。
弁理士試験には覚えなければならない重要な判例がいくつもあります。ここでは簡単に要点だけまとめて解説していきたいと思います。
そしてそれはもちろん実務にも役に立ちます。
選択発明
概要
選択発明とは、構成要件の中の全部または一部が上位概念で表現された先行技術に対し、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明であって、かつ先行発明の中に具体的に開示されていないものを構成要件として選択した発明である。
選択発明には、先行発明によって奏される効果とは異質の効果や際立って優れた効果を奏する場合には、特許性が認められる。
化学の分野でよく出てくるような発明で、例えば以下のような場合だね。
先行技術:A,Bの成分により構成された化学物質で、Aが30%~70%、
発明:A,Bの成分により構成された化学物質で、Aが45%~55%
内容(以下判決文の抜粋になります。平成14(行ケ)524、平成15-12-25)
①選択発明は、そもそも特許法において規定されている概念ではない。選択発明という概念を用いて特許性を論ずるに当たっては、どのような発明を選択発明として定義すべきかを明らかにしたうえで、議論をする必要がある。特許庁の現在の審査基準によれば、「選択発明とは、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明で、刊行物において上位概念で表現された発明又は事実上もしくは形式上の選択肢で表現された発明から、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明から、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明又は当該選択肢の一部を発明を特定するための事項と仮定したときの発明を選択したものであって、前者の発明により新規性が否定されない発明をいう。したがって、刊行物に記載された発明とはいえないものは選択発明になり得る」と定義されている。
②本発明においては、選択発明との語をこのように定義されたものとして使用する。選択発明の進歩性について、このような発明が、「刊行物に記載されていない有利な効果であって、刊行物において上位概念で示された発明が有する効果とは異質な効果、または同質であるか際立って優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測できたものでないときは、進歩性を有する」と記載されている。
③しかしながら、刊行物1に記載された発明のうち、本件発明1に当たる上記の引用発明は、「刊行物において上位概念で表現された発明又は事実上もしくは形式上の選択肢で表現された発明から、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明から、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明又は当該選択肢の一部を発明を特定するための事項と仮定したときの発明を選択したもの」に当たるとは認められるものの、「前者の発明により新規性が否定されない発明をいう。」あるいは、「刊行物に記載された発明とはいえないもの」とは言うことができないことは上記説示の通りである。本件発明1は、そもそも上記の意味における選択発明であるということはできない。
選択発明が認められなかった判例になるよ。
どちらかというと実務に役立つ判例だね。受験生はそういう判例もあったなぐらいの認識で良いと思います。
除くクレームとする補正
概要
「除くクレーム」とする補正とは、本願発明の請求項記載の技術的事項の一部が公知技術と重なるために、新規性が認められない場合に、新規性を確保するために公知技術と重なる一部の技術的事項を除く補正のことをいう。
以下の判例では、「除くクレーム」とする補正を行った場合に本願発明が新規性や進歩性を有する発明として認められるための要件について判示している。
内容(以下判決文の抜粋になります。平成17(行ケ)10608、平成18-6-20)
①新規事項に関する審査基準の「除くクレーム」の項には,「『除くクレーム』とは,請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで,補正により当初明細書等に記載した事項を除外する『除くクレーム』は,除外した後の『除くクレーム』が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合には,許される。
②なお次の(ⅰ)(ⅱ)の『除くクレーム』とする補正は,例外的に,当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取扱う。」との記載があり,(ⅰ)として,「請求項に係る発明が,先行技術と重なるために新規性等(第29条第1項第3号,第29条の2又は第39条)を失う恐れがある場合に,補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで,当該重なりのみを除く補正。」と記載され,(説明)の欄には,「上記(ⅰ)における『除くクレーム』とは,補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで,特許法第29条第1項第3号,第29条の2又は第39条に係る先行技術として頒布刊行物又は先願の明細書等に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む)のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。」
③「『除くクレーム』とすることにより特許を受けることができるのは,先行技術と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有する発明であるが,たまたま先行技術と重複するような場合である。そうでない場合は,『除くクレーム』とすることによって進歩性欠如の拒絶の理由が解消されることはほとんどないと考えられる。」との記載がある。
④上記記載によれば,「除くクレーム」とは,審査,審判の段階において,対象となる発明の新規性に関して,当該発明の特許請求の範囲と公知技術との構成の一部が重なる場合に,本来であれば,構成が同一であるため新規性を欠くとの査定となるところ,当該発明が公知技術と技術的思想としては顕著に異なり,しかも進歩性を有する発明であるのに,たまたま公知技術と一部が重複しているにすぎない場合には,例外的に,特許請求の範囲から当該重複する構成を除く補正をすることを許すという取扱いをいうものと認められる。
技術思想や効果がある程度先行技術と異なる場合じゃなければ、単なる補正で構成要素を取り除くだけでは、ダメということですね。。
最後に
弁理士試験、知財実務に役立つ判例編④~選択発明、除くクレームへの補正について本日は解説いたしました。
いかがだったでしょうか?
また他にも弁理士試験の勉強方法、知財部で仕事内容に解説していますので、ぜひご覧ください。
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