この記事は、令和3年度に1年10万円以下で弁理士試験に合格した現役企業内弁理士が実体験を元に書いています。
弁理士試験には覚えなければならない重要な判例がいくつもあります。ここでは簡単に要点だけまとめて解説していきたいと思います。
そしてそれはもちろん実務にも役に立ちます。
医療行為の発明
概要
経緯
審査基準では、「産業上利用できる発明」に該当しないものの一つの類型として「人間を手術、治療又は診断する方法」を掲げており、例として以下が挙げられている。
- 医療機器(メス等)を用いて人間を手術する方法
- 医薬を使用して人間を治療する方法
- 採取したものを採取した者と同一人に治療のために戻すことを前提として採取したものを処理する方法(例:血液透析方法)
- 人間に対する避妊、分娩などの処置方法
一方で医薬品などは特許が認められているよね。なんでだろうか?
内容(以下判決文の抜粋になります。平成12(行ケ)65、平成14-4-11)
①しかしながら、医薬や医療機器と医療行為そのものとの間には、特許性の有無を検討する上で、見過ごすことのできない重要な相違があるというべきである。
②医療や医療機器の場合、たといそれが特許の対象となったとしても、それだけでは、現に医療行為に当たろうとする意志にとって、その時現在自らの有するあらゆる能力・手段(医薬、医療機器はその中心である。)を駆使して医療行為に当たることを妨げるものはなく、医師は何らの制約なく自らの力を発揮することが可能である。医師が本来なら使用したいと考える医薬や医療機器が、特許の対象となっているため使用できない、という事態が生じることはあり得るとしても、それは、医師にとって、それらを入手することができないという形でしか現れないことであるから、医師が、現に医療行為に当たろうとする時点において、そのとき現在自らの有する能力・手段を最大限に発揮することを妨げることにはならない。医師は、これから自分が行おうとしていることが特許の対象になっているのではないか、などということは、全く心配することなく、医療行為に当たることができるのである。
③医療行為の場合、状況が異なる。医療行為そのものにも特許性が認められるという制度の下では、現に医療行為に当たる医師にとって少なくとも観念的には、自らの行おうとしている医療行為が特許の対象とされている可能性が常に存在しているということになる。 しかも、一般に、ある行為が特許権行使の対象となるものであるか否かは、必ずしも直ちに一義的に明確になるとは限らず、結果的に特許権侵害ではないとされる行為に対しても、差し止め請求などの形で権利主張がなされることも決して少なくないことは、当裁判所に顕著である。医師は常にこれから自分が行おうとしていることが特許の対象になっているのではないか、それを行うことにより特許権侵害の責任を追及されることになるのではないか、どのような責任を追及されることになるのか、などといったことを恐れながら、医療行為にあたらなければならないことになりかねない。
④医療行為に当たる医師をこのような状況に追い込む制度は医療行為というものの事柄の性質状上、著しく不当であるというべきであり、我が国の特許制度は、このような結果を是認するものではないと考えるのが合理的な解釈であるというべきである。そして、もしそうだとすると、特許法が、このような結果を防ぐための措置を講じていれば格別、そうでない限り特許法は、医療行為そのものに対しては特許性を認めていないと考える以外にないというべきである。
まとめ
- 医薬や医療機器と医療行為には明確な違いがある。
- 医薬や医療機器の場合、特許が認められても、医師が入手できないという形でしか現れない。
- 医療行為の場合、特許が認められると医師がこれから自ら行う行為が特許権侵害になる可能性を恐れながら医療行為に当たらなければならず、不当。
- 医療行為そのものに対して、別途規定がないため、29条1項で「産業上利用できる発明」として除外するのが適当である。
受験生にとってはマストで覚えなきゃいけない項目だね。
判例の文を覚えなくて、良いので趣旨全体を簡単に言えるようにはしておこう。
発明の反復可能性
概要
発明の反復可能性は、反復実施すればその都度100%ないしそれに近い確率をもって一定の結果を得られることを意味するものではない。
ある程度の一定確率で再現できれば発明として認められるということだね。
内容(以下判決文の抜粋になります。平成4(行ケ)14、平成9-8-7)
①特許法において「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法2条1項)をいい、出願に係る発明が発明として未完成のものであるときは、同法29条柱書にいう「発明」に該当しないものと解すべきである。
②ところで、技術的思想の創作が「自然法則を利用したもの」といい得るためには、自然力を利用して、反復実施することにより確実に一定の結果を得られることを意味し、このような反復可能性がないときは、その発明は未完成というほかない。しかしながら、ここにいう反復可能性は、反復実施すればその都度100%ないしそれに近い確率をもって一定の結果が得られることを意味するものではない。
利用する自然力如何によっては必ずしも反復実施の都度確実に一定の結果を得られるものではないし、そうであっても産業上利用できる発明として特許性を認めることができる技術的思想の創作が存在し得るからである。
③特に「植物の新品種を育種し増殖する方法」が技術的思想の創作として特許出願された場合、育種した新品種は従来用いられている増殖方法により反復増殖(再生産)できるのが通常であることに照らすと、技術的思想の創作として重要な意味を持つのは、新品種の育種であり、理論的にみてそれが再現される可能性があるということに存する(その点で「新品種の育種」と単なる「新種の発見」とは区別される。)。したがって、前記意味での「反復可能性」があるとは、理論的に新品種の育種を再現できることであり、その確率が高いものであることを要求されないのであって、当業者において当該明細書の記載に基づいて確実に一定の結果をもって新品種を再育種できるならば、反復可能性は満たされるとするのが相当である。
どちらかというと実務に役立つ判例だね。受験生はそういう判例もあったなぐらいの認識で良いと思います。
最後に
弁理士試験、知財実務に役立つ判例編②~医療行為の発明、発明の反復可能性について本日は解説いたしました。
いかがだったでしょうか?
また他にも弁理士試験の勉強方法、知財部で仕事内容に解説していますので、ぜひご覧ください。
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