こんにちは。私は令和3年度、約10万円という低コストで弁理士試験に合格した現役の企業内弁理士です。
この記事では、「弁理士登録に必須となる実務修習ってどんな内容?難易度は?仕事との両立は可能?」といった疑問に、実体験を交えて徹底解説していきます。
実務修習は、ただの形式的な手続きではありません。課題の再提出や厳しい合否判定、時間的拘束もあり、思っている以上にハードな側面も。
でも大丈夫!事前に準備をしておけば、社会人でも十分にこなせます。この記事では、実務修習の内容・費用・受講スケジュール・注意点・メリットなどを網羅的に解説。知財未経験だった私が実際に体験して感じたことも正直に書いていますので、これから受ける方はぜひ参考にしてください。
弁理士実務修習とは?
実務修習の概要と法的根拠
平成20年10月1日施行の改正弁理士法により、弁理士試験に合格しただけでは弁理士として登録できません。日本弁理士会が実施する「実務修習」を修了することが登録の必須条件となっています。
つまり、実務修習を修了しない限り、晴れて弁理士バッジを付けることはできません。
実施機関
現在、実務修習の指定修習機関として認定されているのは日本弁理士会のみ。特許庁ではなく、現役の弁理士が講師として講義を担当します。
この点も非常に重要で、実務のリアルな知見や業界動向に即した実践的な内容を学ぶことができます。
実務修習の対象者と条件
以下のいずれかに該当する方が受講資格を有しています。
- 弁理士試験に合格した者(※ほとんどの方がこれに該当)
- 弁護士資格保有者
- 特許庁で7年以上審査・審判業務に従事した者
実務修習の費用・スケジュール
費用
受講料は118,000円(税込)。この費用は基本的に自己負担ですが、企業によっては支援してくれる場合もあります。
✅ 転職を検討中の方へ
実務修習を会社に支援してもらえる環境に移るのも一つの手です。知財分野でのキャリアアップに強い転職エージェントを利用するのもおすすめです。
実施期間とスケジュール
- 申込開始:11月上旬
- 実施時期:例年12月〜3月
(※令和3年度はコロナの影響で2月〜5月に実施)
実務修習の内容と形式
1. e-learning(オンライン講座)
単位と内容
以下の5分野にわたって、全93単位(各単位30分)の学習を行います。
- 弁理士法および職業倫理
- 特許・実用新案
- 意匠
- 商標
- 条約・その他実務
単位取得には以下が必要:
- 動画を最後まで視聴
- 途中の確認テストで正答率80%以上
私はスキマ時間を使ってスマホで受講していましたが、動画再生だけでなく集中して取り組まないと問題に引っかかります。油断は禁物です。
2. 集合研修(グループ演習)
集合研修といっても、令和3年度はすべてオンライン(Zoom)で実施されました。ただし、顔出し必須・途中離席禁止など、非常に厳格な運用です。
内容
- 課題の事前提出(起案)
- 当日は講師からフィードバックを受けるグループディスカッション
- 出願書類の起案、審査対応、クレーム解釈などリアルな実務を疑似体験
私は初回の「明細書の起案」でいきなり再提出を食らいました。知財未経験者にはハードル高めです。
科目
科目は以下の科目があります。(それぞれに対して事前課題があります。)
- 【特・実】クレーム作成、解釈
- 【特・実】明細書のあり方
- 【特・実】審査対応演習
- 【意匠】出願手続き
- 【意匠】審査対応演習
- 【商標】出願手続き
- 【商標】審査対応演習
コース選択制(会場により異なる)
- 【東京】金曜/土曜/夜間/集中
- 【大阪・名古屋】土曜のみ
👔 忙しい社会人の方は「夜間コース」か「集中コース」がおすすめです。
実務修習での注意点と落とし穴【失敗しないために必読】
実務修習は“登録のための通過儀礼”ではなく、想像以上に厳しいプロセスです。ここでは、私自身の体験を踏まえて、多くの合格者がつまずくポイントと対策を徹底解説します。
1. 【要注意】再提出の恐怖とコスト負担
実務修習の中でも最も多くの受講者が悩むのが「課題の再提出」です。
- 課題提出はゆうパック等による郵送限定
- 再提出となると、再印刷+再製本+再発送
- 1通あたりの送料はおよそ1,000円前後
- 再提出が複数回あると、トータルで1万円以上の出費になることも
📌 実体験
私は明細書課題で再提出を2回経験しましたが、提出ミスや用語選定の甘さなど、ちょっとした油断が命取りになります。
✅ 実務修習はコストとの戦いでもある!
事前にプリンター・インク・封筒・梱包材などの備品を揃えておくことで、余計な出費とストレスを回避できます。
2. 【合格率50〜70%】合否判定は想像以上にシビア
実務修習は“受ければOK”というわけではなく、明確な合否判定があります。
- 合格率は課題により異なりますが、概ね50〜70%
- 再提出は最大3回まで。それでも不合格ならその単位は落とし
- 単位を落とすと、翌年以降に再履修が必要(追加費用あり)
🔍 よくある再提出理由
- 起案の論理が不明確
- 明細書の構成不備
- 引用条文ミス
- 図面や請求項との不整合
📌 実務未経験の方は特に要注意
「どこまで書けばいいのか?」「フォーマットが分からない」など、手探りで進めると高確率で再提出となります。
3. 欠席は原則不可【予定があってもダメ】
集合研修(Zoom開催)では欠席は基本的に認められません。
- 欠席できるのは「業務命令・疾病・交通障害などの正当な理由」のみ
- しかも、証明書等の書面提出が必須
- 家庭の事情や冠婚葬祭は原則として欠席扱いにならない
📌 実体験
私の同期は、家族の出産予定と被ってしまい、参加を諦めて翌年に持ち越しました(再受講料発生)。
また、私は先輩の結婚式と日程が重なってしまい、日本弁理士会に問い合わせたところ、「それは不可」ときっぱり断られました。
✅ スケジュールは事前にしっかり把握・調整を!
開催時期は例年12月〜3月。この期間は私用よりも修習を優先できる体制を整えておくことが重要です。
実務修習のメリット【大変だけど得るものは大きい】
辛くて厳しい実務修習。しかし、乗り越えた先には**「弁理士としての確かな自信」と「人脈・実力・視野の広がり」が待っています。
1. 同期との人脈形成は一生モノの資産
集合研修では、知財事務所勤務、企業の知財部、元研究職、弁護士資格保有者など多彩なバックグラウンドの人々と出会えます。
- 将来の独立・転職・業務提携に役立つ
- 他業界の視点から新たなビジネスアイデアが生まれることも
- 修了後もSlackやLINEなどでつながり続ける同期も多数
📌 実際に私は、同期の一人とその後も連絡を取り合い、副業での知財コンサル案件につながったことがあります。
2. 実務未経験者にとっての貴重な実戦訓練
私自身がそうでしたが、知財実務未経験で弁理士試験に合格した方にとって、実務修習はまさに「実務の初期ブートキャンプ」です。
- 明細書の起案、審査対応、面談などを擬似体験
- 添削講師のフィードバックで生の視点が得られる
- 弁理士として仕事を受ける自信につながる
🔍 よくある感想:
「実務修習で初めて“明細書の書き方”を学んだ」
「いかに論文試験が実務と違うかがよくわかった」
3. キャリア・副業・独立のヒントになる
実務修習では講師や同期から、業界の最新動向・AIや海外対応・特許戦略の事例などが共有されます。
- 弁理士+〇〇(語学、IT、起業)というハイブリッドキャリアの可能性に触れられる
- 独立開業の実態や案件獲得法も聞けるチャンス
- 起業・副業のヒントにもつながる
おすすめの事前準備と講座【未経験者はここから始めよう】
実務修習を無事に乗り切るためには、知識だけでなく“実務的な思考力”を身につけておくことが不可欠です。
「実務って何から手をつければいいの?」「明細書なんて書いたことない…」と不安を感じるのは当然です。
私自身、実務未経験で弁理士試験に合格した一人なので、その不安は痛いほどよく分かります。
そんな方におすすめしたいのが、以下の「読む+書いてみる」2ステップの準備方法です。
🔰 Step 1|まずは“読む”ことで全体像をつかむ
おすすめ書籍:『改訂10版 特許明細書の書き方(知的財産実務シリーズ)』
「明細書って、どうやって書けばいいの?」
多くの実務未経験者が最初にぶつかるこの壁を、体系的にかつ実践的に解説してくれる一冊がこの本です。
📘 書籍の特徴とおすすめポイント
- 特許実務の現場に即した構成
本書は「請求項・実施例・課題・効果」など、明細書の構成要素ごとに章立てされており、どこから読んでも理解が進む設計です。
実務修習で求められるアウトプット(明細書の作成・修正)にそのまま直結します。 - “なぜそう書くのか”まで丁寧に解説
単なる文例の羅列ではなく、「なぜその表現を使うのか」「どうしてその順番なのか」といった論理的背景や実務上の意図に踏み込んでおり、単なる丸暗記では太刀打ちできない実務修習にも対応可能です。 - 初学者でも読める平易な文章
専門書ながら文章は平易で、法的な背景も必要に応じて補足されているため、実務未経験の方にもハードルは高くありません。
「わかったつもり」を防ぐ、繰り返し読みに適した構成です。 - 改訂10版で最新の制度・判例に対応
令和以降の制度改正や判例に対応しており、現場で使われる“今の書き方”を学ぶことができます。
実務修習でも最新の実務感覚が求められるので、古い書籍よりもこの改訂版が断然おすすめです。
📎 修習との関連ポイント
- 📌 eラーニング課題の内容とリンク
修習前半で取り組むeラーニング課題(記載要件のチェックや請求項の検討)において、本書の内容が非常に参考になります。 - 📌 再提出回避のための“型”が学べる
再提出になりがちな記載ミスや論理矛盾も、本書で紹介されている「正しい型」や「チェックポイント」を知っておくことで、事前に回避できる可能性が高まります。
✅ 私自身、「とりあえずこれ1冊」と決めて繰り返し読みました。
修習が始まってからも、課題でつまずいた時に辞書のように使える“お守り的な一冊”になっています。
✍️ Step 2|次に“書いてみる”ことで手を動かす
書くだけで見える景色が変わります。
いくら知識をインプットしても、実際にアウトプットしないと「書くときに何をどう組み立てるのか」が分からないままです。
以下のような方法で、簡単に実践できます。
- 公開公報を使って、簡単な明細書の構成(課題→解決手段→効果)を真似してみる
- 実在の技術(例えば身近な文房具など)を使って、1~2クレームを自作してみる
- 条文(特許法36条や29条など)を見ながら、自分の書いた文章が要件を満たすか確認してみる
📌 実際の修習課題では、「書く力」が重視されます。
書く練習をしていたことで、私は2回目の再提出をなんとか免れました。逆に、何も準備せずに臨んでいたら、確実に3回目も落としていたと思います。
最後に
弁理士の実務修習ついて本日は解説いたしました。
いかがだったでしょうか?
また他にも弁理士試験の勉強方法、知財部の仕事内容に解説していますので、ぜひご覧ください。
私が弁理士試験にかけたコストや時間及びおすすめの講座についてはこちらにまとめていますのでご参照ください。
知財関係の転職をご検討中の方はこちらをご参照ください。
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