【拒絶理由通知を完全攻略】特許明細書の記載要件「実施可能要件」と「サポート要件」を徹底解説【弁理士試験・実務対応・判例付き】

知財業務全般

特許出願の審査において、意外と見落とされがちなのが「実施可能要件」と「サポート要件」です。審査官から拒絶理由通知で指摘されて初めて、「なんとなく理解していたけど、きちんと説明できない…」と感じたことはありませんか?

実はこの2つの要件は、弁理士試験でも頻出であり、明細書作成や中間処理といった実務にも直結する極めて重要な概念です。本記事では、条文・審査基準に即しながら、実務や試験対策に役立つ形でわかりやすく解説していきます。

  1. はじめに|なぜ「記載要件」が重要なのか?
  2. そもそも特許法36条とは?|記載要件の全体像
  3. 🔍 実施可能要件とは?|法的根拠・趣旨・制度的意義
    1. ◆ 法的根拠
    2. ◆ 趣旨(制度目的)
    3. ◆ 位置づけ:特許要件ではなく「出願要件(記載要件)」
  4. 📌 実施可能要件違反の典型類型と判例
    1. ◎ 違反となる典型的な記載パターン
    2. 📚 判例紹介①:知財高裁平成17年(行ケ)10356号(化合物の製造方法)
      1. ◆ 概要
      2. ◆ 裁判所の判断
      3. ◆ ポイント
  5. 🔍 サポート要件とは?|法的根拠・趣旨・意義
    1. ◆ 法的根拠
    2. ◆ 趣旨(制度目的)
    3. ◆ 位置づけ:出願要件(記載要件)の一つ
  6. 📌 サポート要件違反の典型類型と判例
    1. ◎ 違反となる典型例
    2. 📚 判例紹介②:知財高裁平成20年(行ケ)10031号
      1. ◆ 概要
      2. ◆ 裁判所の判断
      3. ◆ ポイント
    3. ◆ 拒絶理由通知への対応:実務上のポイント
      1. 🔧 補正による対応
      2. 📝 意見書による反論
    4. ◆ 弁理士試験での出題パターン:理解・整理のコツ
      1. 🖋 論文試験
      2. ✅ 短答式試験
  7. ✅ よくある拒絶理由とは?|特許審査で指摘される主な法的根拠
    1. 1. 発明に該当しない(特許法第29条1項柱書)
    2. 2. 産業上利用できない(特許法第29条1項柱書)
    3. 3. 新規性がない(特許法第29条第1項)
    4. 4. 進歩性がない(特許法第29条第2項)
    5. 5. 拡大された先願の後願に該当(特許法第29条の2)
    6. 6. 最先の出願でない(特許法第39条)
    7. 7. 明細書等の記載が不明確(特許法第36条4項・6項)
    8. 8. 発明の単一性違反(特許法第37条)
  8. 📝 まとめ:拒絶理由の理解と対処は特許取得のカギ

はじめに|なぜ「記載要件」が重要なのか?

特許出願において、特許庁から通知される拒絶理由の中でも頻出なのが、「記載要件」違反です。これは、出願された発明が特許法第36条に定められた要件を満たしていないことを理由として、特許が拒絶されるケースです。

なかでも、次の2つは弁理士試験や実務で非常に重要です。

  • 実施可能要件(36条4項1号)
  • サポート要件(36条6項1号)

これらは、発明を適切に明細書で説明できているかどうかを問うもので、発明の本質を深く理解した上で記載する必要がある要件です。

そもそも特許法36条とは?|記載要件の全体像

まず、「特許法第36条」は、出願書類(明細書や特許請求の範囲等)の記載要件を定めた条文です。ポイントは以下の通り:

条項要件名内容の要約
4項1号実施可能要件発明の属する技術分野の当業者が実施できるように書く
6項1号サポート要件クレーム(請求項)は、明細書に記載された範囲内であること
4項2号・6項2号明確性要件・記載要件用語の明確さ、論理構造の整合性など

本記事では、このうち特に拒絶理由になりやすく、補正や意見書でも対策が難しい「実施可能要件」と「サポート要件」に絞って詳しく解説していきます。

明確性・記載要件についてはこちらの記事で解説しています。

🔍 実施可能要件とは?|法的根拠・趣旨・制度的意義

◆ 法的根拠

  • 特許法第36条第4項第1号
     >「願書に添付した明細書は、発明の詳細な説明として、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものでなければならない。」

◆ 趣旨(制度目的)

実施可能要件は、独占排他権を付与する代償として、技術内容を社会に開示するという「技術情報公開義務」の観点から設けられています。

  • 発明が公開されても、当業者が実施できないのでは「技術の公開」という公益的対価が果たされない。
  • 特許制度は、発明の公開と保護のバランスで成立しており、実施できる程度に明確な記載がなければ、「不当な独占」となってしまう。

◆ 位置づけ:特許要件ではなく「出願要件(記載要件)」

  • 新規性や進歩性とは異なり、実施可能要件は発明の中身ではなく「明細書の記載内容」に関する要件。
  • 出願時点で満たす必要がある「原則的要件」であり、補正も一定の範囲に制限されます(新規事項追加の禁止等)。

📌 実施可能要件違反の典型類型と判例

◎ 違反となる典型的な記載パターン

類型内容の例
① 製造方法が不明確材料や条件が曖昧(例:「適宜な温度」など)
② 使用方法が未記載「○○として有用」とあるが使い方の説明がない
③ 機能的表現に終始「制御手段を備える」とだけあり、その手段の構成が記載されていない
④ 構成間の関係が曖昧複数要素がどう連携するのかが明らかでない

📚 判例紹介①:知財高裁平成17年(行ケ)10356号(化合物の製造方法)

◆ 概要

  • 対象発明:特定化合物の製造方法
  • 問題点:明細書に記載された合成経路が曖昧で、当該化合物を得られるか不明

◆ 裁判所の判断

「出願時の当業者の技術常識を参酌しても、記載された方法だけでは該化合物を製造することはできない」

実施可能要件違反とされ、特許は無効とされた。

◆ ポイント

  • 「当業者の技術常識」や「実験の反復可能性」がカギ
  • 再現性のない記載や、検証できない架空の合成法はNG

🔍 サポート要件とは?|法的根拠・趣旨・意義

◆ 法的根拠

  • 特許法第36条第6項第1号
     >「願書に添付した特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載したものでなければならない。」

◆ 趣旨(制度目的)

サポート要件は、クレーム範囲と明細書の実質的な対応関係(サポート)を要求するもので、以下の観点から重要です。

  • 不当な権利の拡張防止:記載されていない内容までクレームに含めると、技術的裏付けのない「空理空論」な権利主張になりかねない。
  • 実施可能要件との違い:実施可能要件は「実施できるか」、サポート要件は「書かれていないことをクレームに含めていないか」が問われます。

◆ 位置づけ:出願要件(記載要件)の一つ

  • 明細書との整合性が問われるため、クレームの一般化の幅が常に問題となる。
  • 発明の課題・作用効果・技術構成が、どこまで一般化・拡張できるかが争点になることが多い。

📌 サポート要件違反の典型類型と判例

◎ 違反となる典型例

類型内容
① クレームが明細書の課題を超える明細書ではAの解決手段しか書いてないが、クレームがA〜Zまで対象にしている
② 用語不一致明細書では「制御部」、クレームでは「演算処理手段」として範囲拡張している
③ 効果の飛躍明細書では限定的な条件での効果しか書いていないが、クレームではその条件に言及していない

📚 判例紹介②:知財高裁平成20年(行ケ)10031号

◆ 概要

  • 対象発明:ある製造方法の改良に関する発明
  • 問題点:明細書の記載は特定の条件の実施形態に限られていたが、クレームはその範囲を超えていた

◆ 裁判所の判断

「課題解決手段が当該範囲まで及ぶとは明細書から読み取れない」

サポート要件違反により、クレームが無効(拒絶維持)

◆ ポイント

  • 「課題と解決手段の対応関係」「実施例とクレームの一般化レベル」が重要視される
  • 作用効果に照らした合理的な範囲の主張にとどめるべき

💡 実務対応と弁理士試験対策

◆ 拒絶理由通知への対応:実務上のポイント

拒絶理由通知における記載要件(実施可能要件・サポート要件)違反の指摘に対しては、戦略的な対応が求められます。

🔧 補正による対応

  • 技術構成の明確化
     曖昧な表現を避け、当業者が容易に理解・再現可能なレベルで構成を具体化します。例として、材料の種類や製造手順、反応条件(温度・時間など)を明示することが挙げられます。
  • 数値範囲や条件の追加
     実験データや実施例に基づいて、再現性のある数値的パラメータを補うことにより、実施可能性の担保とクレームの支持性を補強します。

※補正の際は、新規事項の追加に該当しない範囲内で行う必要があるため、明細書全体の記載構成を慎重に見直す必要があります。

📝 意見書による反論

  • 当業者の技術常識の提示
     出願当時の公知技術・学術文献・業界標準などを引用し、「明細書の記載を基にすれば、当業者は容易に実施できる」と論理的に立証します。
  • 支持性の論理展開
     クレームに記載された構成が、明細書の発明の課題・効果・解決手段から論理的に導かれることを示し、「過度の一般化」ではないことを説明します。
  • 補足的データの活用(必要に応じて):
     補足データは原則として新規事項に該当するため注意が必要ですが、意見書にて説明補足として扱う範囲内で使用されるケースもあります。

知財業務全体についてはこちらでご紹介しておりますので、ご参照ください。

◆ 弁理士試験での出題パターン:理解・整理のコツ

実施可能要件・サポート要件は、記載要件の中核として弁理士試験で頻出です。形式ごとにポイントを整理しておきましょう。

🖋 論文試験

以下のようなテーマで出題される傾向があります:

  • 条文の趣旨説明と具体的適用場面の説明
     →「なぜその記載で実施可能性が担保されるのか」「なぜサポートされていないと判断されるのか」といった理由付けを問われます。
  • 判例の事案分析と実務的な対応策の記載
     → 判例(例:知財高裁平成17年(行ケ)10356号など)を踏まえて、拒絶理由通知に対して補正・意見書でどう対応すべきかを記述する問題が出題されます。
  • 明細書の記載とクレームの範囲に関する実務的アドバイス
     → クレームをどう表現すべきか、どのような記載がサポートされているといえるかなどを具体的に論じる力が求められます。

✅ 短答式試験

  • 条文知識の正確な理解(特許法36条4項1号・6項1号)
  • 新規事項の判断、補正の可否(特許法17条の2)
  • 明細書とクレームの記載関係の判断(どこまでがサポートされているか)
  • 実施例や技術的効果の有無に基づく「実施可能性」の判断

このように、記載要件に関する実務的理解と法的根拠の運用能力は、弁理士試験合格にも直結する重要ポイントです。単なる知識暗記ではなく、「技術内容を法律にどう当てはめるか」を意識した学習が効果的です。

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✅ よくある拒絶理由とは?|特許審査で指摘される主な法的根拠

特許出願に対して拒絶理由通知が発せられる際には、記載要件違反(実施可能要件・サポート要件)の他にも、さまざまな法的要件の不備が原因となることがあります。以下に、代表的な拒絶理由を法条番号とともに整理しました。

1. 発明に該当しない(特許法第29条1項柱書)

自然法則を利用していないもの、単なる発見・数学的手法・遊技方法などは「発明」に該当しません。
例:単なる人間の行動指針や精神的活動、会話のスクリプトなど。

2. 産業上利用できない(特許法第29条1項柱書)

医療行為のように産業として利用できないものや、倫理的に特許保護に馴染まないものは対象外です。

3. 新規性がない(特許法第29条第1項)

出願前に公知・公用・刊行物で開示されている技術と同一であれば、新規性がないとして拒絶されます。

4. 進歩性がない(特許法第29条第2項)

周知技術を単なる組み合わせで導き出せる発明は、進歩性を欠くとされます。
実務では「引用発明との相違点」「当業者の容易想到性」が判断のポイントとなります。

5. 拡大された先願の後願に該当(特許法第29条の2)

公開された出願(先願)と同一の発明が、その後の出願(後願)と重複している場合に成立します。

※先願の内容が拡大されていた場合も対象になる点に注意。

6. 最先の出願でない(特許法第39条)

同一の発明について複数の出願がなされた場合、原則として最も早い日付の出願のみが特許の対象となります(先願主義)。

※分割出願・変更出願の場合も考慮されます。

7. 明細書等の記載が不明確(特許法第36条4項・6項)

実施可能要件・サポート要件・明確性要件など、出願書類における記載の不備も拒絶理由になります。
特にクレームの文言が曖昧で、発明の技術的範囲が不明確な場合に指摘されます。

8. 発明の単一性違反(特許法第37条)

1つの出願に複数の発明が含まれる場合、それらが技術的に関連しないと「単一性違反」として拒絶されることがあります。
→ 特許出願は原則として一出願一発明主義が採用されています。

📝 まとめ:拒絶理由の理解と対処は特許取得のカギ

拒絶理由は単なる形式的な障壁ではなく、発明の内容・記載の仕方・クレームの構成そのものに対する厳しいチェックです。
特許法の各条文の趣旨と要件を深く理解することが、実務対応・弁理士試験対策の両面で極めて重要です。

  • 出願前の明細書構成と先行技術調査の徹底
  • 拒絶理由通知に対する冷静な分析と論理的対応
  • 条文・判例・審査基準に基づいた明快な主張展開

これらができてこそ、実務でも試験でも「本当に価値ある特許権」を取得・防衛する力が養われます。

私が弁理士試験にかけたコストや時間及びおすすめの講座についてはこちらにまとめていますのでご参照ください。

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