特許権の侵害判断方法について企業知財部の現役弁理士が解説いたします。[弁理士試験にも役立つ]

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自社の発売予定の製品が他社の特許を侵害しているかもしれない。。。そうなったときにどのように抵触判断すればいいのでしょうか?

本日は具体的な事例を踏まえて特許の侵害判断方法について解説いたします。

特許権侵害

特許権侵害とは

そもそも特許権侵害とは

正当な権限なく、特許権者で無い者が、他人の特許発明を業として実施することをいいます。

つまり権原のない他者が、その発明の技術的範囲に属する物または方法を実施したかどうかで判断します。

ちなみに他者が実施している製品や方法をイ号と呼ぶので覚えておこう。

侵害の種類(直接侵害と間接侵害)

侵害の種類には直接侵害と間接侵害があります

直接侵害とは上記で説明している侵害、つまり他者の実施している製品が発明の技術的範囲に属する場合を言います。

間接侵害とは、上記以外で直接的に侵害はしていないけれど、侵害を引き起こす蓋然性が高い特定の場合に該当します。

例えば、特許請求の範囲が『Aエンジンを使った車』において、他者が直接車の販売はしていないけれど、この『Aエンジンを使った車』にしか使わないAエンジンを生産している場合、特許侵害となります。

Aエンジンを作った時点で、差し止めることで早めに侵害を防止するためにできた規定だよ。

特許発明の技術的範囲とは

基本的には特許請求の範囲に基づいて定める

『特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない』と特許法70条1項に規定されています。

つまり特許請求の範囲に基づいて基本的には特許発明の技術的範囲は決まります。

例えば、特開2020-044309の折りたたみ椅子の発明で例で言うと

【請求項1】
    載置部と、
  該載置部に接続した第1の脚体および第2の脚体を有する折りたたみ椅子において、
  第1の脚体は、
    1対の棒状部材と、該棒状部材間に渡る当接部を備え、
  第2の脚体は、
    前記第1の脚体の前記棒状部材間に配置される1対の棒状部材と、
    前記第2の脚体の前記棒状部材のそれぞれに固定されたフックを備え、
  前記フックと、前記当接部が係合し、
前記第1の脚体に対して、前記第2の脚体を固定する
ことを特徴とする折りたたみ椅子。

が特許発明の技術的範囲になるわけです。

明細書、図面は用語の意義の解釈に使われる

また「願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と記載されています。

つまり、特許請求の範囲で分からない言葉は明細書等の説明を見て解釈しましょうという話になります。

例えば上記の請求項において、棒状部材がどのような形なのかなどは請求項の記載だけでは抽象的なので、明細書や図面を確認して丸い棒なのか四角い棒なのか、それともそのどちらも含むのかなどを判断します。

つまり、明細書の実施例に限定して解釈されます。

特許請求の範囲だけでなく、明細書の書き方も大事なんだね。

特許権侵害判断の方法

特許権侵害判断の手順概要

簡単に言うと、下記の手順になります。

  1. 『特許請求の範囲』の記載を、構成要件A,B…のように、構成要件に分節する。
  2. 特許発明の各構成要件に対応する技術要素が被疑侵害製品にあるかどうかを検討する。
  3. その技術要素がその構成要件と同一であるか否かを確認する。

①『特許請求の範囲』を構成要件に分節

【請求項1】
  A  載置部と、
  該載置部に接続した第1の脚体および第2の脚体を有する折りたたみ椅子において、
  B 第1の脚体は、
    (B-1)1対の棒状部材と、(B-2)該棒状部材間に渡る当接部を備え、
  C 第2の脚体は、
   (C-1) 前記第1の脚体の前記棒状部材間に配置される1対の棒状部材と、
    (C-2) 前記第2の脚体の前記棒状部材のそれぞれに固定されたフックを備え、
 D 前記フックと、前記当接部が係合し、
前記第1の脚体に対して、前記第2の脚体を固定する
ことを特徴とする折りたたみ椅子。

請求項1を例えば上記のように分節しました。

このようにある程度特徴に分けて分節すると良いです。

  • Aはおいて書きと呼ばれる前提部分
  • Bは第1の脚体についての説明
  • Cは第2の脚体についての説明
  • Dは第1の脚体と第2の脚体の接合方法についての説明
選択図

②被疑侵害製品の技術要素を検討する。

次は、先ほど分節した被疑侵害製品の技術的要素を検討していきます。

物の特許の場合は実物だったり、図面などから下記の表に構成要素を書き起こしていきます。

逆にシステムの特許だったり、制御の特許だったりすると目に見えないので仕様書や実際の作動実験などから確認していきますので、こちらの方が侵害認定は難しいですね。

特許請求の範囲イ号(被疑侵害品)
A載置部と、該載置部に接続した第1の脚体および第2の脚体を有する折りたたみ椅子において、・載置部と第1の脚体と第2の脚体を有する。
・折りたたみ椅子である。
B-1第1の脚体は、1対の棒状部材と
B-2該棒状部材間に渡る当接部を備え、
C-1 第2の脚体は、前記第1の脚体の前記棒状部材間に配置される1対の棒状部材と、
C-2前記第2の脚体の前記棒状部材のそれぞれに固定されたフックを備え、
D 前記フックと、前記当接部が係合し、前記第1の脚体に対して、前記第2の脚体を固定することを特徴とする折りたたみ椅子。

技術要素が構成要件と同一であるか否かを確認する。

次にそれぞれの技術的要素が構成要件を満たすかどうか(構成要件と同一かどうか)を確認します。

満たす場合は〇、満たさない場合は×を付けていくと良いでしょう。

最終的に一つでも満たさないものがあれば非侵害、すべて満たせば侵害になります。

以上が侵害判定の具体的手順になります。

特許請求の範囲イ号(被疑侵害品)構成要件を満たす
A載置部と、該載置部に接続した第1の脚体および第2の脚体を有する折りたたみ椅子において、・載置部と第1の脚体と第2の脚体を有する。
・折りたたみ椅子である。
B-1第1の脚体は、1対の棒状部材と
B-2該棒状部材間に渡る当接部を備え、
C-1第2の脚体は、前記第1の脚体の前記棒状部材間に配置される1対の棒状部材と、
C-2前記第2の脚体の前記棒状部材のそれぞれに固定されたフックを備え、×
D 前記フックと、前記当接部が係合し、前記第1の脚体に対して、前記第2の脚体を固定することを特徴とする折りたたみ椅子。

開発や研究の部署の人も知っておいて損はないよ~

本日は、特許の侵害判断方法について説明しました。知財部だけでなく、開発、研究の担当者も使うと思うので是非参考にしてみてください!!

また他にも弁理士試験の勉強方法、知財部で仕事内容に解説していますので、ぜひご覧ください。

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