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10万円弁理士coffee|令和3年度弁理士試験に1年・総費用10万円以下で一発合格した現役の企業内弁理士。メーカー開発職→知財部→外資系IT企業。実体験と一次データに基づいて執筆しています。 → 詳しいプロフィール
この記事は、令和3年度に1年・10万円以下で弁理士試験に合格した現役企業内弁理士が、実務経験をもとに執筆しています。PCT出願は企業の海外知財戦略の中核です。「そもそも何か」「費用はいくらか」「パリルートと何が違うか」「実務でどう使うか」まで、初心者から実務担当者まで使える形で体系的に解説します。
1. PCT出願とは?まず3点だけ押さえる
PCTとはPatent Cooperation Treaty(特許協力条約)の略です。1970年に締結され、日本は1978年に加盟。現在157ヵ国以上が加盟しています。
- ✅ 一度の国際出願で加盟国すべてに出願したとみなされる(PCT第11条)
- ✅ 国内移行まで最大30ヶ月の猶予が得られる(市場調査・資金調達の時間稼ぎになる)
- ⚠️ PCT出願=各国での特許取得ではない。各国移行後に個別審査・権利化が必要
この3点が頭に入っていれば、以降の詳細も理解しやすくなります。
2. PCT出願のメリット・デメリット【意思決定の判断材料】
▷ メリット4つ
| メリット | 内容 |
| ① 優先日を一括確保 | 国際出願日が各国の出願日とみなされる(先願主義で有利) |
| ② 30ヶ月の猶予 | 市場性を見極めてから移行国を決められる。資金調達の時間稼ぎにも有効 |
| ③ ISA調査結果で戦略調整 | 国際調査報告(ISR)と見解書を受け取ってから、移行国を絞り込める |
| ④ 管理の一本化 | 複数国への出願管理・期限管理を一元化できる |
▷ デメリット2つ
- ❌ 費用が高い:庁手数料だけで約36万円以上(後述)。出願国数が少ない場合はパリルートより高くつく
- ❌ PCT出願≠特許取得:各国で別途移行手続き・翻訳・審査費用が必要。コストはむしろ後半にかかる
3. PCT出願にかかる費用【2026年最新・特許庁公式データ】
「PCT出願は高い」とよく言われますが、具体的にいくらかかるのか。特許庁の2026年公式手数料表をもとに解説します。
■ 庁手数料(特許庁への支払い)
| 手数料の種類 | 金額(2026年5月以降) | 備考 |
| 国際出願手数料 | 264,900円 | 30枚以内 |
| オンライン出願割引 | ▲ 59,800円 | 電子出願ソフト使用時 |
| 送付手数料 | 17,000円 | 固定 |
| 調査手数料(ISA/JP・日本語) | 143,000円 | EPO選択時は約346,000円 |
| 合計目安(日本語・ISA/JP・オンライン) | 約365,100円 | 庁手数料のみ |
これは庁手数料だけの金額です。弁理士事務所への代理人費用(明細書作成・翻訳・手続き)が別途100〜300万円以上かかるのが実態です。
■ 中小企業・スタートアップ向け軽減措置(2024年〜)
2024年1月から庁手数料の軽減制度が始まりました。
- 中小企業・個人事業主:国際出願手数料・送付手数料・調査手数料が 1/2
- スタートアップ企業:同手数料が 1/3
■ 出願国数で判断:PCTかパリルートか
一般的に4〜5ヵ国以上への出願が見込まれる場合にPCTのコストメリットが出ます。2〜3ヵ国ならパリルートの個別出願の方が安くなるケースもあります。
4. PCT出願 vs パリルート:どちらを選ぶべきか
海外特許の取り方は大きく2つ。PCTとパリルート(パリ条約に基づく個別出願)です。
| 比較項目 | PCT出願 | パリルート |
| 出願手続き | 一度の手続きで複数国に一括 | 各国ごとに個別出願 |
| 国内移行期限 | 優先日から最大30ヶ月 | 優先日から12ヶ月(パリ条約4条) |
| 費用(少数国) | 高め(PCT庁手数料が固定でかかる) | 安い場合が多い |
| 費用(多数国) | 割安になりやすい | 各国費用の合計で高額に |
| 調査・補正 | ISR/19条・34条補正が使える | 各国の審査を待つのみ |
| 向いているケース | 4〜5ヵ国以上、市場調査に時間が必要 | 1〜3ヵ国、早期権利化が目的 |
▷ 判断の目安
- PCTを選ぶ:出願国が未確定・4ヵ国以上の可能性がある・30ヶ月の猶予が必要・ISRで特許性を事前評価したい
- パリルートを選ぶ:出願国が確定済み(1〜3ヵ国)・早期に権利化したい・コストを最小化したい
実務では「とりあえずPCT」で猶予を確保し、ISR見解書を見てから移行国を絞る、という運用が企業知財部では一般的です。
5. PCT出願の流れとスケジュール【タイムライン図解】
PCT出願には厳格な期限があります。期限ミスは権利喪失に直結するため、スケジュール管理が最重要です。
| タイミング(優先日基準) | 手続き・イベント | 根拠条文 |
| 0ヶ月(Day 0) | 国内第一出願(優先日の起算点) | パリ条約4条 |
| 〜12ヶ月以内 | PCT国際出願→出願日確定(PCT第11条) | PCT第11条 |
| 〜16ヶ月頃 | 国際調査報告(ISR)+見解書 受領 | PCT第18条 |
| 18ヶ月 | 国際公開(WIPOによる自動公開) | PCT第21条 |
| 16〜19ヶ月 | 19条補正(ISR受領後可能) | PCT第19条 |
| 〜22ヶ月以内 | 国内移行(一部の国・旧EPC加盟国など) | PCT第22条 |
| 〜22ヶ月以内 | 国際予備審査請求(第34条補正のため) | PCT第31条 |
| 〜28ヶ月 | 国際予備審査報告(IPER)受領 | PCT第35条 |
| 30ヶ月以内 | 各国への国内移行手続き(原則) | PCT第39条 |
⚠️ 30ヶ月の期限は原則として延長不可。管理ミスで国内移行を失念すると、その国での権利化が永久に不可能になります。企業知財部では移行期限の管理を特許管理システムで厳重に行います。
6. 国際調査報告(ISR)と補正の実務ポイント
■ 国際調査報告(ISR)とは
PCT出願後、国際調査機関(ISA:International Searching Authority)が先行技術調査を行い、国際調査報告(ISR)と見解書(Written Opinion)を作成します。日本語出願の場合、ISAは原則として特許庁(JPO)またはEPOを選択できます。
ISR・見解書は特許性の事前評価として活用できます。「この発明は新規性・進歩性に問題あり」と示された場合、問題のある移行国を絞って費用の無駄を省くことが可能です。
■ 19条補正 vs 34条補正の違い
| 比較項目 | 19条補正 | 34条補正 |
| タイミング | ISR受領後〜優先日22ヶ月以内 | 国際予備審査請求後(22ヶ月以内に請求) |
| 補正できる範囲 | クレームのみ | クレーム・明細書・図面すべて |
| 目的 | 先行技術を回避するクレーム補正 | ISAとの対話による包括的な補正 |
| 審査官との対話 | なし | あり(国際予備審査での応答) |
| 費用 | 無料 | 予備審査請求料が別途必要 |
実務では、ISRで新規性・進歩性に問題なしと判断されれば19条補正だけで十分なケースが多いです。問題ありの場合や、各国移行前に強力なクレームを確保したい場合に34条補正(国際予備審査)を活用します。
7. 国内移行(National Phase Entry)の手続き
PCT出願は「一括出願の入口」であり、各国での実際の権利化は国内移行(ナショナルフェーズへの移行)によって開始します。
■ 国内移行時に必要なもの
- 各国語への翻訳文(英語出願でも非英語圏は要翻訳)
- 各国の出願料・審査請求料
- 各国での現地代理人(弁護士・弁理士)の選任
- PCT出願番号・優先権情報の提出
■ 主要国の国内移行期限
| 国・地域 | 国内移行期限(優先日基準) | 備考 |
| 日本 | 30ヶ月 | 国内処理基準時 |
| 米国 | 30ヶ月 | 35 U.S.C. 371。ただし早期審査も可能 |
| 欧州(EPO) | 31ヶ月 | EPC加盟国はEPO経由が一般的 |
| 中国 | 30ヶ月 | 中国語翻訳必須 |
| 韓国 | 31ヶ月 | 韓国語翻訳必須 |
国内移行しなかった国は、その国での権利化を放棄したことになります。移行費用を節約するため、ISR見解書の内容と事業の市場展開計画を照らし合わせて移行国を絞り込むことが重要です。
8. 実務担当者が必ず押さえる3つの注意点
① ISA見解書を活用した戦略的な国内移行
ISA見解書では、各クレームの新規性(N)・進歩性(IS)について国際調査官の見解が示されます。「全クレームY(特許性あり)」なら全移行国に自信を持って移行できますが、「一部クレームX(特許性なし)」の場合はクレーム補正を検討した上で移行判断をするのが合理的です。
企業知財部では、ISR受領→クレーム評価→事業部との協議→移行国確定という一連のプロセスを30ヶ月の期限内に計画的に実施します。担当弁理士としてこの流れを把握しておくことが、スタートアップや中小企業の支援でも重要になります。
② 30ヶ月の移行期限は延長不可
PCT出願の最大のメリットである「30ヶ月の猶予」ですが、この期限は原則として延長できません(一部の国では救済手続きはあるが、費用・手間がかかる)。期限管理システムへの登録、弁理士事務所への事前確認を怠ると、権利喪失リスクがあります。
実務では「国内移行依頼は28ヶ月頃に完了させる」という目安を設けている企業が多いです。ギリギリまで引きつけると翻訳会社・現地代理人のキャパシティ不足で間に合わないケースが起きます。
③ 優先権の主張忘れへの救済制度
PCT出願時に優先権の主張をし忘れた場合、PCT規則26の2に基づく救済が認められることがあります(国際出願日から16ヶ月以内に所定の請求が必要)。また、優先権の主張の「回復」(規則49の3)も一部条件下で認められます。こうした救済制度の存在を知っておくことは、依頼者へのサービスという点でも重要です。
9. 弁理士試験でのPCT出願【受験者向け】
弁理士試験(短答・論文)では、PCTは頻出テーマです。条約・特許法の両方から出題されます。
■ 頻出条文・規則チェックリスト
- PCT第11条:国際出願日の要件
- PCT第15条・規則33条〜:国際調査の対象・範囲
- PCT第19条・規則46条:19条補正(時期・範囲・回数)
- PCT第21条:国際公開(18ヶ月)
- PCT第22条・第39条:国内移行期限(22ヶ月 vs 30ヶ月)
- PCT第31条・第34条・規則66条・67条:国際予備審査・34条補正
- 特許法第184条の3〜:国内段階での処理(外国語書面出願等)
- 規則26の2・規則49の3:優先権救済
■ 試験対策のポイント
短答では「国内移行の22ヶ月 vs 30ヶ月の区別」「19条補正と34条補正の相違点」が頻出です。論文ではPCT出願の手続きフローを時系列で書けることが求められます。パリ条約との接続(優先権)も一体的に理解しておくことが重要です。
弁理士試験の体系的な学習については、以下の記事・サービスも参考にしてください。
10. よくある質問(FAQ)
Q1. PCT出願だけで各国での特許が取れますか?
いいえ。PCT出願は「出願」の一括手続きであり、特許権の取得ではありません。各国で特許権を取得するには、30ヶ月以内に各国へ「国内移行」し、各国の審査を経て登録を受ける必要があります。PCT出願はあくまで「各国への出願日確保と猶予期間の確保」が目的です。
Q2. PCT出願後にクレームを大幅に変更することはできますか?
19条補正ではクレームのみ・一回の補正が可能です(PCT第19条)。クレーム・明細書・図面のすべてを補正したい場合は、34条補正(国際予備審査)を利用します。ただし34条補正には国際予備審査請求料が別途必要で、22ヶ月以内に請求が必要です。なお、国内移行後の各国での補正はその国の法律に従います。
Q3. PCT出願とパリルートを同じ発明に対して使うことはできますか?
同じ優先権を根拠にPCT出願とパリルート出願の両方を行うことは可能です(二重出願)。例えば、PCTで多数国をカバーしつつ、早期に権利化が必要な国にはパリルートで個別出願するという使い方もあります。ただし費用が重複しますので、戦略的な判断が必要です。
Q4. 国内移行期限を過ぎてしまった場合の救済はありますか?
一部の国では救済手続き(Restoration of Rights)が認められていますが、対応していない国もあり、費用・時間・手間が大きくかかります。原則として期限は延長不可とお考えください。管理ミスを防ぐために、特許管理システムと複数チェック体制の構築が不可欠です。
Q5. 中小企業・スタートアップにはPCT出願は現実的ですか?
コスト的には負担が大きいですが、2024年から始まった中小企業向け庁手数料軽減(1/2)・スタートアップ向け軽減(1/3)により、以前より現実的になっています。また、日本貿易振興機構(JETRO)の「海外知的財産プロデューサー派遣事業」など、海外出願費用の助成制度も活用できます。資金調達前の段階で優先日を確保し、30ヶ月の猶予を得るという使い方は、スタートアップにとって戦略的価値があります。
11. まとめ
PCT出願について、基本から実務・弁理士試験対策まで解説しました。最後に要点を整理します。
- PCT出願は一括出願の入口。各国での権利化は国内移行後の審査が必要
- 庁手数料だけで約36万円(オンライン・ISA/JP)。軽減措置の活用を忘れずに
- 4〜5ヵ国以上ならPCTのコストメリットが出やすい。少数国はパリルートも検討
- ISA見解書を使って移行国を戦略的に絞ることが実務のコスト最適化の鍵
- 30ヶ月の期限は延長不可。早め早めの管理が鉄則
PCT出願の実務は奥が深いですが、まず「タイムライン」「費用感」「パリルートとの使い分け」の3点を押さえておけば、担当者・受験者どちらの立場でも対応できます。関連する記事もあわせてご覧ください。





