各国の特許出願の審査の特徴と対処法[現役企業弁理士が解説いたします。]

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直接PCT出願ができるようになったことで簡単に世界各国に特許出願ができるようになった一方、各国によって法律や審査基準が異なります。

各国の審査基準や法律を考えずに中間処理をしてしまうと、余計な労力をかけてしまったり、補正範囲をいたずらに狭めてしまったりします。

このページでは、各国の特許出願の審査の特徴や対処法を解説いたします。

JP(日本)への特許出願

JP出願の形式

JP出願については、一番大切な特許出願になると思いますので、詳細に説明いたします。

他国はJPとの差異という点で理解していけば良いと思います。

出願全体の流れ
JP出願の拒絶理由通知

拒絶理由は以下のものがあります。

  • 発明に該当しない(特許法第29条1項柱書)
  • 産業上利用可能でない(特許法第29条1項柱書)
  • 新規性がない(特許法第29条1項)
  • 進歩性がない(特許法第29条2項)
  • 拡大先願による後願に該当する(特許法第29条の2)
  • 最先の出願でない(特許法第39条)
  • 明細書等の記載が不明瞭である(特許法題36条4項、6項)

また拒絶理由通知には、最初の拒絶理由通知と最後の拒絶理由通知があります。

最後の拒絶理由通知とは、拒絶理由通知に対する応答時の補正により通知することが必要になった拒絶理由を通知するものをいいます。

最後の拒絶理由通知を受けた場合、特許法17条の2第5項の補正の目的に限定されます。

JPの審査の特徴
  • 電話インタビューには基本的に応じてもらえる
  • 拒絶理由通知が基本的にロジカル(きちんと引例を組み合わせて進歩性の否定がされ、不当に設計的事項として片づけられることは少ない)
  • 英語の文献のサーチ能力が低い。
  • 日本国特許庁に直接PCT出願した際の国際調査の審査判断が尊重されるため、国際段階で特許性が認められればほぼそのままJPに移行しても特許査定がされる。
JP出願の対処法

基本的に審査基準に基づいて、一定の審査がされるので、不当であれば意見書のみで反論することも可能です。

電話インタビューにも基本的に応じてもらえるので、拒絶理由の意図が分からない時などはインタビューを積極的に使っていくことをおすすめします。

US(アメリカ)への特許出願

US出願の形式
US出願の形式

US出願とJP出願での差を挙げます。

最後の拒絶理由通知

まず、最後の拒絶理由通知が異なります。

最初の拒絶理由に対して出願人が提出した補正書・意見書を再度審査したが、依然として特許の要件を満たさないと判断された場合は、最後の拒絶理由通知が発行されます。(日本の場合とちょっと定義が異なりますよね。)

例外は以下です。

  • 出願人の補正げ原因で通知する必要が生じていない場合
  • 適正な期間内にIDSによって提出された文献と関係ないものを導入する場合

また最後の拒絶理由通知後に認められる補正は以下です。(この辺は日本の出願と似てますね)

  • クレームの削除
  • 方式的な不備を解消するための補正
  • 審判請求後の審理に備えて、より良い形でクレームを記載したほうが良いとされる場合
  • その補正が必要であること、及びその補正をそれより前に提示しなかったことが正当であった場合
アドバイザリ通知

アドバイザリ通知とは最後の拒絶理由通知に対して行った応答によっても、特許とならない場合に通知されます。(日本における拒絶査定に相当)

出願人は、アドバイザリ通知を受け取ることで、自らが行った補正によって拒絶理由が解消していないことを知ることができます。
アドバイザリ通知を受けてかつ、最後の拒絶理由通知が発行された日から6カ月を経過した場合は、出願を放棄したものとみなされてしまいます。

継続審査請求(RCE)と審判請求

継続審査請求(RCE)は、一定の料金を支払うことにより、審査のやり直しを求めるものです。
アドバイザリ通知を受けた際、最後の拒絶理由通知に対する応答の際に提出した補正書が新たな争点を含むと判断された場合に有効です。例えば更に補正案を行ったりする場合は継続審査請求()を行います。

審判請求とは、審査官の最終的な拒絶に対して不服を申し立てる手段で、クレームの補正などを行うことはできません。

US出願の特徴
  • インタビューには、一回目の拒絶理由通知に対しては応じてもらえる。最後の拒絶理由通知に対しては審査官に委ねられる。
  • きちんと順番通りどういった制御を行うのかなどのステップを踏んだようなクレームが好まれる。
  • 審査の厳しさはJP出願と同じくらい。
US出願の対処法

言語の違いがあるので、現地代理人とインタビューをうまく使いつつ、拒絶理由を解消していきましょう。

クレームの中で、まず〇をして、次に△をして、その次に×をするような方法。というようにステップを明確にするクレームが好まれます。ステップを明確にするだけで拒絶理由が解消したりするので、使ってみてください。

EP(ヨーロッパ)への特許出願

EP出願の形式

ヨーロッパ特許制度(EPC)とは

ヨーロッパ諸国の特許に関する実体的、手続的要件を統一化して、出願から特許付与までの手続を欧州特許庁で一括して行うことを目的として設立された制度です。

ヨーロッパ特許制度によって特許権を取得した後は、締約国に移行することによって、各国における特許権を取得することができるので、PCTのヨーロッパバージョンと思っていただければ良いです。

拡張サーチレポート(EESR)

拡張サーチレポートは、欧州特許庁が調査した出願の新規性・進歩性の審査結果を示しており、出願と共に公開されます。

拡張サーチレポート(EESR)では、以下のように各クレーム毎に対応する引例が挙げられます。この辺はPCTの国際調査と似てますよね。

  • X・・単独で特許性が否定される
  • Y・・組み合わせることにより、特許性が否定される
  • A・・単なる先行技術

出願人は、拡張サーチレポートで特許出願にかかる発明の特許性が否定された場合、つまり拡張サーチレポートにX、Yが掲載されていた場合には、拡張サーチレポートに対して、拡張サーチレポートの公開から6カ月以内に応答しなければなりません。

逆に拡張サーチレポートが肯定的な内容であった場合には、応答義務はありません。

EP出願の特徴
  • クレームの数が15を超える場合には、所定の手数料が発生する。
  • とにかく明確性要件が厳しい、請求項を見ただけで発明が明確になるレベルでの明確性が必要。
  • 明確性でないクレームの箇所は読み飛ばして新規性、進歩性判断がされる場合も多い。
  • インタビューは受けてくれない場合も多い。(特に明確性が解消していない場合は、受けてくれない)
EP出願の対処法

まずは明確性要件を解消することを目標に補正を行っていきましょう。

やはり現地代理人が詳しいので、現地代理人にある程度意向を伝えつつ補正案を提示してもらうのもありだと思います。

明確性が解消した後で、新規性、進歩性で解消可能か論議していきましょう。

とにかく明確性の要件が厳しくて、出願時のクレームの分量の倍くらいで登録されるイメージ(笑)

CN(中国)への特許出願

CN出願の形式

時期的な差はありますが、基本的に形式はJP出願と同じと考えていただいて大丈夫です。

CN出願の特徴
  • インタビューに応じてもらえるかは審査官の裁量次第だが、基本的に審査官がクレームに対して肯定的な意見を持っている場合は、応じてもらえ、否定的な場合は応じてもらえないイメージ
  • 補正による新規事項追加の基準が厳しい。基本的に明細書の文面通り、補正事項として追加することは許されるが、上位概念化して追加や明細書の構成を部分的に持ってきて組み合わせるなどは許されない。
  • JP出願に比べて、設計的事項として片づけられる範囲も多い。
  • 意見書だけの反論で通りにくい。(審査官が当初の判断を変えることは少ない。)
CN出願の対処法

まずは明細書に当初から補正しやすいような構成を入れておくことが必要です。

なかなか意見書での反論だけでは通りにくいので少し形式的な補正を入れてあげるのも必要です。

不当に設計的事項として片づけられることもありますが、審査官の意図を把握して、妥協点をみつけるようにしましょう。

新規事項追加の判断がとにかく厳しいので、国際段階で認められた補正も認めない場合も多いね~

MX(メキシコ)への特許出願

MX出願の形式、特徴
  • 他国の審査(EP,US)などの審査結果を尊重して、拒絶理由通知を行うのが通例
  • 独自の審査は基本的に行われない。
MX出願の対処法

基本的に他国審査結果を参考にしているので、他国で特許査定となっているクレームに補正して、特許性を主張するのが良いと思います。

IN(インド)への特許出願

IN出願の形式、特徴
  • 他国の審査(EP,US)などの審査結果を尊重して、拒絶理由通知を行うのが通例
  • 独自の審査は基本的に行われない。
  • 稀に独自の審査を行う審査官がいる
IN出願の対処法

基本的に他国審査結果を参考にしているので、他国で特許査定となっているクレームに補正して、特許性を主張するのが良いと思います。

しかしながら、稀に独自の審査を行う審査官がおり、また外れな拒絶理由通知を受ける場合もある。

インドは、たまに独特な審査を行う人がいて苦労することがあるので注意だよ

BR(ブラジル)への特許出願

BR出願の形式、特徴
  • まず他国の審査で使われた引例を元に拒絶理由通知がされる。(予備OAと言われ、特に形式的で審査は行っていない)
  • 2回目以降では他国の審査(EP,US)などの審査結果を尊重して、拒絶理由通知を行うのが通例
  • 独自の審査は基本的に行われない。
  • 拒絶理由の通知に対する対応から次の通知まで約1年間ほど間が空く
BR出願の対処法

1回目で必ず他国の審査で使われた引例を元に拒絶理由通知(予備OA)がされます。

これは形式的なもので特に審査は行っていません。

基本的に他国審査結果を参考にしているので、他国で特許査定となっているクレームに補正して、特許性を主張するのが良いと思います。

新興国の審査では基本的に他国の審査結果を参考にして審査を行っているので、他国審査のコピペだったりするよ。真面目に付き合うよりは他国のクレームに合わせて特許性を主張するのがオススメだよ~

最後に

本日は、各国の特許出願の審査の特徴や対処法について解説いたしました。

私が弁理士試験にかけたコストや時間及びおすすめの講座についてはこちらにまとめていますのでご参照ください。

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