特許出願において、拒絶理由通知として実施可能性要件やサポート要件の違反は拒絶理由としてたまに言われますよね。でもなかなか完全に理解している人は少ないのではないでしょうか
知財の実務に関わっている人はもちろん、弁理士試験受験者にとっても重要な箇所になります。本日はここを徹底解説したいと思います。
実施可能要件とは?
実施可能要件の概要
特許法36条第4項第1号に規定されている拒絶理由の一つで、その発明の属する分野の当業者が実施できる程度に開示されているの事を指します。
実際の条文は以下です。
4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
簡単に言うと、実施の仕方が十分に書かれていない特許に対して権利を与えるのはちょっとずるいよね。
経済産業省令とは?
経済産業省令とは、以下の部分を指します。
特許法施行規則(発明の詳細な説明の記載)
第二十四条の二 特許法第三十六条第四項第一号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。
つまり何が言いたいかと言うと以下が必要ということです。
- 発明の属する技術の分野
- 発明が解決しようとする課題及びその解決手段
ちなみにこれらが明示的に理解できる内容であれば記載しなくても良いってことも知っておこう。
ただ基本的には書いてあるよね
当業者とは
簡単に言うとその分野の知識を十分に持った人の事です。つまりカメラの分野ならカメラの開発者で一般的な知識を十分に持ってる人が容易に思いつけますか?という観点です。
審査基準には当業者の定義が以下の全ての条件を備えた者と書かれています。
- 研究開発のための通常の技術的手段を用いることができること
- 材料の選択や設計変更等の通常の創作能力を発揮できること
進歩性の時よりも当業者のレベルは低いよ。
例えばどんな場合に実施可能要件違反になる?
実施可能要件違反には以下のような類型があります。
- その物を製造できるように記載されていない
- その物を使用できるように記載されていない
- その方法を使用できるように記載されていない
- 技術的手段の記載が抽象的または機能的である
- 技術的手段相互の関係が不明確である
逆に以下のような場合には、実施可能要件違反にはなりません。
- 請求項の発明以外の発明について実施可能に十分な詳細な説明が記載されていない
- 請求項の発明を実施するために必要事項以外に余分な記載がある
実施可能要件違反にはどう対応すれば良いのか
①実施可能要件を満たすように補正
審査官の拒絶理由通知に示唆がある場合があるので、それに従って補正を行って満たせば拒絶理由を解消することができます。
②意見書により反論
例えば意見書で審査官が考慮している出願時の技術常識とは異なる技術常識を証明すれば、拒絶理由を解消できる可能性があります。
例えば、出願人が示した技術常識を参酌すると実施可能であると審査官が納得すれば、拒絶理由が解消します。
補正により権利範囲に影響がない場合はおとなしく補正を行うのも手だよ。
サポート要件とは?
サポート要件の概要
特許法36条第6項第1号に規定されている拒絶理由の一つで、請求項にかかる発明は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではあってはなりません。
つまりクレームの範囲が大きすぎて、発明の詳細な説明で記載されていないとダメだということです。
実際の条文は以下です。
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
例えばどんな場合にサポート要件違反になる?
サポート要件違反には以下のような類型があります。
- 請求項に記載されている内容が、発明の詳細な説明中において説明されていない場合
- 請求項及び発明の詳細な説明に記載された用語が不統一であり、両者の対応関係が不明確である場合
- 出願時の技術常識に照らして、請求項にかかる発明の範囲まで発明の詳細な説明に記載された内容を一般化できない場合
- 発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が請求項に記載されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えた特許を請求している場合
サポート要件違反にはどう対応すれば良いのか
①サポート要件を満たすように補正
審査官の拒絶理由通知に示唆がある場合があるので、それに従って補正を行って満たせば拒絶理由を解消することができます。
②意見書により反論
例えば意見書で審査官が考慮している出願時の技術常識とは異なる技術常識を証明すれば、拒絶理由を解消できる可能性があります。
例えば、出願人が示した技術常識を参酌すると、発明の課題を解決するための手段を把握可能であると審査官が納得すれば、拒絶理由が解消します。
補正により権利範囲に影響がない場合はおとなしく補正を行うのも手だよ。
譲れない権利範囲に対しては反論しよう
他にはどのような拒絶理由がある?
拒絶理由の内容には他にも以下のものがあります。
- 発明に該当しない(特許法第29条1項柱書)
- 産業上利用可能でない(特許法第29条1項柱書)
- 新規性がない(特許法29条第1項)
- 進歩性がない(特許法29条第2項)
- 拡大先願による後願に該当する(特許法第29条の2)
- 最先の出願でない(特許法第39条)
- 明細書等の記載が不明瞭である(特許法題36条4項、6項)
- 発明の単一性違反(37条)
以下に解説しているのご参照お願いいたします。
最後に
本日は実施可能性要件、サポート要件について説明させていただきました。
とても重要な内容なので、実務や試験にもきっと役立つと思います。
私が弁理士試験にかけたコストや時間及びおすすめの講座についてはこちらにまとめていますのでご参照ください。
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